この記事はトラベルボイスから転記したものです。
1958年12月、日本一高い建築物の総合電波塔として開業した東京タワー。開業翌年の入場者数は年間約500万人に及び、入場待ちの列が浜松町駅まで約1キロ続いたという伝説的なエピソードを持つ都内有数の観光スポットだ。
そんな東京タワーは2021年7月、Eチケット予約のプラットフォーム「リンクティビティ(Linktivity)」と連携し、展望台入場チケットのデジタル販売を開始した。見据えるのは、コロナ後のインバウンド需要の獲得と競争力の向上だ。リンクティビティとの連携で目指す、東京タワーの戦略を聞いてきた。
東京タワーは、開業フィーバーが一段落したのちも、年間250万人、あるいは300万人を超える集客を、おおむね維持してきた。流行や新技術が入れ替わっても、ハードの刷新と時代に応じたユニークな企画を打ち出す企業努力で、半世紀以上も東京観光の第一線で人々を惹きつけている。
そんな東京タワーも、コロナ禍で大きな打撃を受けている。個人旅行化が進んでいるとはいえ、大型観光施設にとって団体旅行やツアーは収益の要だ。また、インバウンドの増加に応じて東京タワーでも海外セールスを強化し、訪日客の比率は入場客全体の約4割を占めていた。これらの需要がコロナで激減した影響は、想像に難くない。
株式会社TOKYO TOWER(東京タワー)執行役員観光本部長兼販売部長の髙尾英樹氏は、「今の課題は大きく2つ。まずはこのコロナ禍を生き抜くこと」と話す。そのため東京タワーでは、感染状況に応じながら、施設の特徴を生かした企画やイベントを打ち出し、誘客に取り組んでいる。
例えば、150メートルの高さにあるタワー中段の展望台「メインデッキ」まで、屋外の階段で登る「オープンエア外階段ウォーク」の対象日を、以前の週末2日間から毎日に拡大。また、営業前のメインデッキで絶景とともに楽しむ茶道体験「朝茶の湯」を企画し、人数限定の特別感を加えて開始した。このほか、メインデッキ内イベントスペースでアーティストのライブを行い、リアル配信するオンラインイベントや、広い屋外駐車場での「台湾祭」なども実施。感染対策の制限があるなかでも、可能な範囲で東京タワーを楽しめるよう、あの手この手で企画を生み出している。
こうした足元の需要獲得と同時に重視するのが、2つ目の課題。コロナ収束後の中長期を見据えた、インバウンド獲得への準備だ。現在は需要がゼロでも「やはり、今後伸びるのはインバウンド。海外OTAの新規開拓が必要」(髙尾氏)と先を見る。そのため、海外セールスの一環として、Eチケット予約プラットフォーム「リンクティビティ」との連携を決めた。海外販路の開拓に伴う課題の改善を期待しているという。
東京タワー 執行役員観光本部長兼販売部長の髙尾英樹氏
リンクティビティは、日本の観光関連サプライヤーと国内外200社以上の旅行会社やOTAを結ぶBtoBのEチケット予約プラットフォームだ。サプライヤーへの販路と旅行会社やOTAへの商材供給をする場と同時に、事業者の予約販売から送金・入金に至るまでの管理運用を一元化できるシステムを提供。サプライヤーのチケットをQRコードでEチケット化することで、紙の実券では難しかった流通の課題に対応できるのが特徴だ。
これまでも東京タワーは、海外の大手OTAや体験予約サイトで販売を始めていたが、海外セールスのメインは東アジアや東南アジアの大手旅行会社への実券ベースでの販売だった。さらなる海外販路の拡大を望むが、東京タワーには「セールスは国内と海外を兼任しており、海外の新規マーケットの開拓が後回しになってしまう」(観光本部営業部営業課グループリーダーの清水雅也氏)という悩みがあった。
東京タワー 観光本部営業部営業課グループリーダーの清水雅也氏
販路の開拓には、そのマーケットの言語はもちろん、商習慣から市場動向、提携企業の情報などを把握する必要がある。その上で、各事業者と交渉・契約をすることに対して「国ごとに異なる商習慣等に対して、どこまで対応できるか」(髙尾氏)という不安もあった。しかし、リンクティビティのプラットフォームに連携することで、「取引先ごとの契約や毎月の請求作業は不要。予約販売から送金まで、すべてシステムでカバーできる」(清水氏)。しかも、取引先の信用面でも、同社と同じ枠組みのプラットフォームに参画する企業なので、安心感があることもメリットだという。
リンクティビティのセールスチーム・チームマネージャーの李明載氏は、「プラットフォームの連携先は常に模索しており、MaaSや福利厚生企業などとの連携も進めている。サプライヤーの販売先を効果的に増やす役割を担っていると自負している」と胸を張る。
リンクティビティは国内の観光サプライヤーと国内外の旅行会社を結ぶプラットフォーム。サプライヤーは販売チャネルの一元管理が可能で、販売先の拡大と販売業務の効率化を同時に実現できる
さらに、リンクティビティが力を入れているのが、連携先のサプライヤーを組み合わせた企画券のセット販売だ。鉄道や地下鉄など観光に不可欠な交通機関を中心に、観光施設の入場券や体験チケットを組み合わせるというもの。「セット販売の機会を増やすことで、BtoB予約プラットフォーム以上の価値を提供できる」(李氏)と力を籠める。
東京タワーも、このセット販売に乗り出す計画が進んでいる。2021年11月1日からは、東京タワーのメインデッキ入場券と東京メトロと都営地下鉄の全線に乗車できる「Tokyo Subway 24-hour Ticket」とのセット販売を開始した。清水氏は「当館は徒歩圏に地下鉄4駅があるので、交通系チケットとのセット販売ができればお客様に利便性を提供できる」と期待を寄せる。今後は、東京モノレールやスカイホップバスなどに加え、周辺施設などを含めたセット券の実現も目指す方針だ。
リンクティビティのプラットフォーム上で連携するサプライヤー同士が企画券としてセット販売が可能。企画券も、プラットフォーム上で連携する旅行会社やOTAなどのほか自社サイトでも販売可能
セット券の参画施設を増やしていく理由について髙尾氏は、「年間500万人が訪れた昭和の時代なら、アイコン的な施設の魅力でお越しいただけたが、今は令和の時代だ。お客様のデスティネーション選びは、観光施設単独ではなく、全体の行程を見てお決めになられている。施設としての魅力度UPは当然のこととして、周辺施設を含むエリアの“面”で魅力を出していくことが重要であり、その方がお客様の満足度向上につながる」と話す。
東京タワーでは以前から、交通事業者や観光施設とのセット販売に取り組んでいた。しかし、各施設に打診し、形になるまでには、時間も手間がかかる。それが、リンクティビティの参画施設同士の連携なら、打診や連携の交渉が省かれ、効率が良い。髙尾氏によると、セット販売に至るスピード感は、「以前は半年を要したことが、リンクティビティの連携先同士の場合では、その3分の1程度で済んだ」と説明する。
リンクティビティ セールスチーム・チームマネージャーの李明載氏
リンクティビティでは今後、プラットフォームの連携先を拡充すると同時に、参画者同士のセット券販売を強化していく方針。すでに同社では、関西の鉄道・バス事業者で構成する「スルッとKANSAI」との提携で、訪日旅行者向けに交通機関と観光施設の入場券を組み合わせた「大阪周遊パス」のEチケットシステムを提供しており、東京でも同様の取り組みを推進したい考え。ゆくゆくは「1日券にとどまらず、1か月単位などの『定期観光券』などにも取り組んでいきたい」(李氏)と、新たな観光商品の提案にも意欲的だ。
2022年春、東京タワー下のフットタウンに日本最大級のeスポーツのテーマパークがオープンする。「開業当時より、館内には最新のテクノロジーや文化流行を展示するエリアがあり、それらを発信していく役割を担っていたことからも、まさに東京タワーにマッチしている。そして、最新の文化流行の発信拠点としての役割は今後も担っていきたい。この観点で考えれば、デジタルとリアルとの融合体験で世界と繋がることで、例えば、バーチャル営業といった新しい観光を打ち出すこともあり得るかもしれない」(清水氏)と話す。
限られたマンパワーは、東京タワーの持ち味であるユニークな企画やイベントの創出に注力する。「営業力や販売管理の効率化はリンクティビティとの連携で向上させ、人の力は付加価値の強化に充てていきたい」と高尾氏。リンクティビティの販売プラットフォームは、連携企業の魅力をさらに輝かせる機会も提供している。